牛乳は噛んで飲む

こっそり転職活動を行うグラフィックデザイナーのなんてことない日常。

老いと向き合う

先月、母方の祖母が手首を骨折しました。買い物にでかけた際に転んでしまい、数時間経っても痛いので母に病院へ連れて行ってほしいと連絡があったそうです。行きつけの整形外科があったので、車で連れて行くと骨折していることが判明。手首なので、しばらくは動かないようにと肘から指の第二関節ぐらいまでギプスで固定することに。

今回骨折してしまったのは右手首。祖母は右利き。おまけに去年ごろから右足が慢性的に痛むため、右手で杖をつきながら生活をしています。骨折をしたことにより、食事や文字を書くことはもちろん歩行や排泄まで自分ひとりでできなくなってしまいました。

何をするにもサポートが必要になってしまったのですが、うちには犬と厄介な父親がいます。父親は昔から人付き合いが苦手な性格で、祖母ともあまりうまくいっていませんでした。祖母は裕福な家庭で育ったせいか、何においても自分が中心でいたいという性格。父はそこがどうも気に食わないらしく、祖母とは法事以外で顔を合わさないようにしていました。なのでうちで一緒に生活するという選択肢は母のなかにはなかったようです。

母には妹が一人おり骨折のことを報告すると、ちょうど先月離職して求職活動中とのこと。一人暮らしで他に気をつかわなければいけないような同居人もいないので、しばらく祖母の家で寝泊まりすると言ってくれたらしい。

その日から、妹さんが祖母の家で寝泊まりしながら生活のサポートをし、母も極力祖母の家へ行くようになりました。わたしはなるべく母の負担を減らすため、早めに帰社したり家の用事をするようにしていたのですが、父親がとにかくご機嫌斜め。

毎日母が車で父の通勤の送り迎えをしているのですが、祖母の家から帰るのが遅くなってしまい迎えに行けない日がありました。その日は、父→母→わたしの順に帰宅したのですが、わたしが家の前に着くと父の怒鳴り声が。いそいで家のなかに入ると、すごい剣幕で母のことを怒鳴り込んでいました。外まで声が聞こえてるから、とりあえず落ち着いて。と父に言うと灰皿を地面に叩き付けて寝室へ行きました。

母を見ると、人形のように無表情。大丈夫?と声をかけると「大丈夫。お父さんの性格は前からあんなだから。もう苛々も悲しくもならないわ。」と言ってビールをごくごく飲んだ。大丈夫ではないことは明らかだったので話を聞くと、送り迎えだけでなく夕飯の支度やお風呂の準備などができてなかったことに父は腹を立てたそうです。そのぐらい自分でやれよと思うのですが、結婚してから家事を全くしてこなかった父に「自分でやる」の発想はありません。これがちょっと前に話題になった“モラハラ”ってやつでしょうか。

同じころ妹さんから、祖母は夜眠りにつくと1.5時間置きにトイレに行くのでなんとかしてほしいと連絡があった。祖母はひとりでトイレに行けないので、そのたびに起こされるらしい。そのおかげでほとんど睡眠がとれず、体調が悪いようでした。祖母も寝不足で体調を崩しているのかと思いきや、祖母は日中数時間ごとに昼寝をしているそうだ。昼寝をするから夜中に何度もトイレに行きたくなるのかと思い、昼間は寝ないように話しかけたり軽い体操をするように言うのだが、ちょっと目を離した隙に寝てしまう。もう毎日睡眠不足と慣れない介護とでストレスが溜まっているので、来れるときでいいので母に泊まりに来てほしいということでした。

また父が怒りだしたら面倒なので、わたしが代わりに泊まりに行くと言ったのですが、母は自分が行くから大丈夫だと言って聞きませんでした。

土曜日は母が泊まり、それ以外の日は妹さんが泊まる。日中は母が極力行くようにし、どうしても行けないときは妹さんがサポートをするという生活が3週間ほど経ったころ。祖母が家の中で転んで大腿骨を骨折した。

その日は妹さんが家におり、昼食後に眠くなってしまい昼寝をしていたそうです。その間に祖母は何かを取りに寝室へ向かっている途中の廊下で転んでしまった。幸い、頭は打っていなかったようなのですが、あまりにも痛がるので救急車を呼ぶと骨折していることが分かった。

運良く翌日に手術の空きがあったので、運び込まれた病院でそのまま入院することに。妹さんは自分が目を離してしまったせいで骨折させてしまったとひどく落ち込んでいたが、逆に母は妹さんがいてくれたからすぐ救急車に来てもらえたしよかったじゃないと言った。祖母が入院することになり、24時間無休の介護から少し解放されるとあって二人の表情は憑き物が取れたようにおだやかに見えました。

祖母は今現在も入院中で、来月にはリハビリ専門の病院へ移動するらしい。移動先の病院がなかなか空きが見つからないらしく、母は連日病院探しの旅に出ています。それでも毎日介護していたころにくらべると、顔に表情が見える。

人は誰しも老いるもの。老いていくにつれ、できないことや体の不自由が出てきて誰かのサポートが必要になるということ。それらのことを分かっているつもりでしたが、今回の一件でほんの一瞬ですが深刻さを実感することができました。その一瞬はあまりにも深い闇に包まれていて、いつ飲み込まれてもおかしくない状況だということも。

 

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